【本】社員をサーフィンに行かせよう―パタゴニア経営のすべて

日本でもファンの多いアメリカのアウトドア用品・衣料品メーカーであるパタゴニアの創始者イヴォン・シュナードが同社の経営を語った一冊。




この本を選んだ理由

パタゴニアの衣類は色合いも美しくデザインも機能性も優れているが、正直値段が高い。フリースならユニクロでは2千円で買えるがパタゴニアでは2万円近くする。

しかし、以前コミュニティカレッジのビジネス英語の授業でパタゴニアを題材にプレゼン課題に取り組んだことがあり、その経営理念や取り組みに興味を持っていたので手に取ってみることにした。

もう一つの理由は、私はNPOで寄付を集めるファンドレイザーの仕事にも関わっているが、一般の人にとってなぜ私達の団体の活動がお金を寄付すべき対象になりうるのかをもっとうまく表現できるのでは無いかと常日頃思っていることもある。

素材一つ一つにこだわりをもったクオリティの高い商品を適正な値段で販売し、それが支持され、かつ、タイトルのように社員が心地よく働けることに心を砕く企業のあり方はどこか私達が目指す姿に似ているし、きっとヒントがあると思ったのだ。


いい波が来たらサーフィンに

タイトルの「社員をサーフィンに行かせよう」というのは、パタゴニアの採用方針と働き方を表している。アウトドア用品メーカーなので「アウトドアを愛する人である」ことが採用する人材に求める最重要要素だ。

そしてサーファーにとって海に出るタイミングは予め決めておくものではなく「いい波が来た」時が理想的だそうで、いつでもサーフィンに、そしていいパウダースノーが降ればスキーに行けるようにフレックスタイム制を導入しているという。

アメリカ企業は日本と比べて、勤務時間のマネジメントに関しては相当個人の裁量が認められているが、その時間をアウトドアに使って欲しいという明確な目的を打ち出しているのは独自性が高く、また、会社の目指す社員像が明確で社員のモチベーションにも繋がると思った。

ちなみに私が働くマドレボニータでも、体を動かすことや、映画や本や美術などの様々な文化に触れること、そして子どもの学校の活動や副業など団体の仕事以外の第三の場を作ることを奨励している。


誰もが、聡明で信頼できる個人

パタゴニア社の目的は「ビジネスを手段として環境危機の解決を支援する」。彼らは大きい会社になるとか、会社の株式を公開することは考えておらず、善行という本来の目的に邁進したいという。

本を読んでいると、失敗もあればCEOは6回も変わっていたりと一筋縄では行かなかった様子も垣間見られ親近感もわくが、製造、マーケティング、財務など一つ一つの取り組みに一貫した理念が貫かれ、ブレがないことが多くの人に支持される理由だと理解できた。

消費者に対し、
「一人一人に対して、社会に積極的にかかわる聡明で信頼できる個人として語りかけるのだ。自分が顧客ならそうされたいと思うからだ。」という表現には深く共感した。

翻って、「マドレボニータの産後ケア教室は意識高い系の人が行くところ」と表現され、本当はすべての母となった女性に必要なヘルスケアなのに、と悔しく感じていたことが思い出される。誰もが社会に積極的にかかわる聡明で信頼できる個人としての素質を持っていると信じて、自分たちが提供しているものの価値を伝えていけば良いのだろう。

「アメリカ株式会社」を牽引する存在に

また、パタゴニアが自ら手本となり「アメリカ株式会社」を引っ張って行きたいという発言は非常に興味深い。説明するまでもなく世界で最も環境破壊に影響を及ぼしているこの国に対し、同社は企業の、そして消費者一人一人の行動改革をビジネスを通して訴えている。

例えば1994年、パタゴニアは世界でいち早く製品を全てオーガニックコットンに切り替えることを決めた。また、パタゴニアの衣類は高額だが、直営のリペアセンターがあったり、下取り・中古販売の仕組みを整えていたりと長く着られるようサポートしているのだ。

更に、毎年売上高の1%を環境保護活動団体に寄付している。当初は税引き前利益だったが、利益操作できない売上高にあえて変えたそうだ。そしてアメリカや世界に対し物言える存在であるために利益を出し続けることにもこだわっている。

最後に付け加えると社内託児所もいち早く設置し、500名のオフィスで60名の子ども達がいきいきと過ごしているそうだ。日本法人でも設置したいと書いていたのでぜひ実現して欲しい。


読み終えて

制度で締め付けたり、目標達成を最重要視したり、長時間労働を強いたりというこれまでの社会のあり方の歪みがあちこちで出ているのと同時に、毎年自然災害が増えている日本に、私は非常に危機感を持っている。

社会に、地球に、何が出来るだろう?そして自分の組織もどう進化して行けば良いのだろう?という問いのヒントを沢山もらった一冊だった。

とはいえ、本音を言えば「理念に忠実でさえいればそんな全部うまくいくのか?」という疑問も湧いてきている。パタゴニアのこれ以上の秘密を探るには英語の記事を参照しなければいけないと思うので、楽しみながら英語のインプットの機会を増やせそうだ。

 

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