【本】君に友だちはいらない

 著者の瀧本哲史氏は、東大大学院を出てマッキンゼー・アンド・カンパニーに勤務後、タクシー大手日本交通の経営再建に取り組み、その後はエンジェル投資家として活動しながら京都大学産学協同センターで「意思決定論」「起業論」「交渉論」等の人気講座の教鞭を取ってきた人物である。恐ろしく頭が良くて仕事ができる方だったのだろうが、一昨年、40代後半の若さで病死された。


本書は瀧本氏が2012年に若者へのメッセージとして描き下ろした一冊だが、全編を通して、この社会の中でいかによきチームを作りながら価値を出していくか、という示唆に富んでいる。コロナショックで揺れる現在にも学び多い内容である。


第一章では天動説と地動説の話が登場する。天動説はなぜ地動説に置き換わったのか?どこかのタイミングで論破されたのか?研究によるとそうではなく、天動説の支持者が死に絶え、新しい世代は天動説なんておかしいんじゃないかと考えるようになってきたからだという。


「大きな世の中のパラダイム・シフトというのは、『世代交代が引きおこす』ということである。古いパラダイムを信じている前の世代を説得して意見を変えさせるのは、不可能であるし、それに労力を注ぐのは時間の無駄だということだ。」


筆者はこのように述べ、また、自分たちの信じる新しいパラダイムの支持者を少しずつ増やす、つまり「仲間」を作っていくことの大事さを大学の講義や著書で若者たちに伝えている。理由として、過去の明治維新やビジネスの巨人も皆若者だったと紹介する。松下幸之助、井深大、孫正義、永守重信※日本電産、柳井正、スティーブジョブス、ラリー・ペイジ…ビル・ゲイツとマーク・ザッカーバーグにいたっては19歳で会社を設立している。そして彼らは皆よき仲間=チームを得て大きなことを成し遂げているのだ。


また、前職のマッキンゼーや投資先のベンチャー企業「オトバンク」の例を紹介しながら、多様性のある仲間と出会いチームを作ること、そして教養を身につけることの重要性を筆者は強調する。


「大学に行くことの本当の意味は(中略)『教養とはほかの見方が存在しうることを知ること』にある。」

「教養の持つ大切な機能の一つが、『自分と違う世界に生きている人と会話できるようになること』だ。」


このように述べ、多様性が担保されたコミュニティに身をおくべきと説くが、異なる属性の人とコミュニケーションをとるために教養が必要だというのは40代になると一層良くわかるし、教養は、薄っぺらいものの見方を防ぐ何よりの武器だということも身にしみる。武器なしの薄っぺらい人間にならないようにまだまだ学ばなくては…。


また、こんなエピソードも紹介されている。瀧本氏があるとき関わっていた会社の採用面接でメガバンクに20年以上勤務していた40代男性に「今まであなたがやってきた仕事で、もっとも会社を儲けさせたのは何でしょうか。チームでの仕事の場合、あなたがそこで果たした主導的な役割は何ですか」と尋ねたところ、考え込んだ末に悲しみに満ちた表情でこう答えたそうだ。

「そう言われてみると、私には実績と呼べるものが、何もないですね」


なんとも…悲しい。こうならないために、「結果を出すためにどうしたらいいか自分の頭で真剣に考え行動すること」「社内の枠にとらわれず広く目を向けること」などを伝えている。若い時から実践しないと本当に中身のない年寄りになるのは一瞬だと実感。


私自身もコロナ禍で仕事でも課題が噴出して苦労してきたが、本書のあちらこちらにその背景をあらためて見つけたり、現在の取組みが正しい方向性だと自信を与えられる言葉があった。列挙するのは避けるが、今行き詰まりを感じるビジネスパーソンにもぜひ読んでもらいたい。


大学生のうちに瀧本氏の濃厚な教えをぜひ読んでほしいと思うと同時に、現代を生き延びたい中年にも一読の価値があると思えた一冊だった。他の著書も読んでみたいと思う。



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