【本】国家の罠

「国家の罠」は佐藤優氏の初の著書である。



最近の佐藤氏といえば豊富な人生経験と知見を元にビジネス雑誌での指南役から女性誌のコラムまで幅広く活躍する存在である。
言うなれば北方謙三氏や安部譲二氏のような、軟弱な現代人が憧れるハードボイルドおじさん、というところかしら。

その佐藤氏を一躍有名にした、彼の経験の緻密な描写を縦軸に、彼の仕事観そして人生哲学を横軸に織りなされた大長編がこの「国家の罠」であり、この本は我が家の書棚にだいぶ昔から鎮座していた。

「ま、私向けではないな」と流しつつ、心のどこかで、この方のコラムを「消費する」だけなのはどこか失礼にあたるような、いつかは彼の真髄であるこの本を読んでみなくてはいけないような気がしていた。

読み進めてまずは彼の仕事のスケール感に驚愕した。

大国対大国の緊張感しかない情報の応酬、しかも一対一ではなく他国を巻き込みながら、そして他国のみならず自国内のそれぞれの思惑が渦巻く中で…。

こんな人と自分を比較するのはどうかしてると思うが、この本の内容は彼が三十代後半から四十代前半の経験である。
自分と比べてみると、今の私が、私というちっぽけな生命体が、一体どうしたらロシア語を操りロシアを動かす人々と丁々発止渡り合えるのか??と疑問しか出てこない。

若干意気消沈するぐらいのインパクトだったが、佐藤氏は1日3時間睡眠、ウオッカを何杯も収容する肝臓の持ち主とのこと。
人間としては異なる種なのだと自分を納得させた。

この本を通して一番感銘を受けたのは、佐藤氏のぶれない信念とその信念に基づく行動。
ロシアの人々から受けている信頼、鈴木宗男氏への周囲が驚くほどの誠実さ、外務省内の人への、職位でなく人柄や行動に基づいた評価、感謝、そして真正面からの辛辣な批判など、数々のエピソードや文章からも伝わってくる。

また、収監後の日々を綴った箇所では、塀の中の暮らしを人生の終着点とみなし堕ちていく人と、たとえ本当に終着点だとしても与えられた環境を活かしていく人の違いを強く感じた。

その明確な分かれ目は無く、誰しも人生の中で光と影を体験し、その中でいかに光を求めて一歩を踏み出すかなのだと思う。その一歩の原動力、ひいては人を立派な人たらしめるのは学びと内省なのだと改めて思う。佐藤氏の信念に基づく行動はおそらく宗教観が大きく影響しているのだとも。

また収監の体験によって佐藤氏の経験が鮮やかな文章になり、多くの人に驚きと知見を与えていると思うと、彼に立ち止まる機会があったことに感謝さえしたくなる。

最後にまとめると、本というのはわずか2,000円前後で何度でも人の数奇な人生を疑似体験できるのが本当に素晴らしく、またどんな環境にいようとも学ぶ意欲さえあれば人は自分の人生を生きていけるというのがあらためての気づきだった。

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