【本】ドラッカー・スクールのセルフマネジメント教室―Transform Your Results
本書は、カリフォルニアのクレアモント大学院大学に所属する「ドラッカー・スクール」(Drucker School of Management)の准教授ジェレミー・ハンター氏が、経営者や若手リーダー向けに教えているセルフマネジメントの講座の大事なポイントを書籍にまとめたものである。
同氏は近年は日本でも若手リーダー向けにセルフマネジメント講座を開いている。私も参加したことがあり、参加をきっかけにそれまで全く意識していなかった視点から自分自身や周囲を理解できるようになった。
思考だけでなく、感情や身体感覚に意識を
かのピーター・ドラッカー氏は「他者をマネジメントするためには、まず自分自身をマネジメントすることだ」と言っている。ここで言うマネジメントとは「管理する」というより、相手や状況を理解しながらうまく対処していくことにより、よりよい結果に近づけていくことである。
そして「理解する」というのは思考に気づくだけではなく、感情や身体感覚にも意識を向けることだと本書では説いている。それら一連の意識を向ける行為、言い換えると情報を正確にキャッチするためのスキルが「マインドフルネス」だ。スピリチュアルな文脈で語られることが多いマインドフルネスを、本書ではビジネスパーソンに必要なセルフマネジメントのための実用的なスキルとして紹介している。
過去の前例に頼れない時代を生きるために
現代社会において、私達は過去の前例に頼れない世界に生きており、状況に対処しながら自分自身が変化することを求められている。そんな時代を生きていくためには、他者や変えられない結果を変えようとするのではなく、自分自身を変えることで望む結果を得ることが大事であるという。
具体的に、ジェレミー先生が授業で繰り返し問いかける問いがあるという
・あなたの意図したことはなんですか
・あなたが本当に望む結果はなんですか?
・いま手にしている望んでいない結果はなんですか?
これらの問いによって自分の思考や行動のパターンに気づき、望む結果に近づくための選択肢を見つけていくことができるという。ダイエット中にお菓子に手を伸ばそうとしたとき、勉強するはずがスマホに手が伸びている時などが思い浮かぶ。そう、セルフマネジメントは瞬間のマネジメントなのである。本書には「インテンション・リザルト・マップ」というワークシートが付いており、これを使って自分の思考や行動パターンを紐解いていくことができる。
ストレスの本質と休息の重要性
また、もう一つの大きなテーマとして「ストレスと休息」がある。本書では、ストレスとは「恐れと疲弊、消耗」と捉える事ができると述べている。ストレスを感じているときに「自分は何に恐れているのか?」「自分はどのように疲れているのか、なぜ気力や体力を失っているのか」と言葉を変えて問いかけてみることで、より適切に具体的に対処できる可能性が高まるという。また、自分の中から湧き出てくる感情を見つめ、それがどのような役割を担っているのかを理解することも大切だという。
休息に関して言うと、日本人は特に「頑張れ頑張れ!!」で乗り切ってしまおうとする傾向があるが、その反動がガクッと出ることも少なくないと思う。一流スポーツ選手のように「戦略的な休息」を取ることで高いパフォーマンスを保ちやすくなると著者は語る。こうした考えは日本ではまだまだ知られていなかったり、実践されていないのではないか。
本書ではさらに神経系のマネジメントとして、交感神経と副交感神経の特性と、それぞれの限界を超えてバランスを崩すことの影響について述べられている。ややもすると攻撃的になるハイパーテンションの過覚醒、フリーズしてしまう低覚醒、そしてその間で交感神経と副交感神経がバランスを保っているレジリエンス・ゾーンがあり、このレジリエンス・ゾーンにいかにとどまるか、そしてゾーンを広げていくことが大事だという。
確かに人が理想とする社会の実現に向かって邁進する時、リーダーシップを発揮しようと奮闘すればするほど、この過覚醒や低覚醒に陥りやすいのかもしれない。
こんな人におすすめ
私自身もストレスや苛立ち、不安を感じることはままあるが、ジェレミー先生のワークショップを受けて以来、そのストレスを具体化したり、うまく吐き出したり、あえて時間や精神的なスペースを確保するということの大事さを理解し、実践することができている。言い換えれば楽天的でのんびりとした私でさえ、意識的にスペースが必要なのだ。反面、周囲の人が頑張りすぎて精神的に張り詰め、追い詰められてしまう様にも遭遇することは多々ある。
現代を表すVUCAという言葉がある(Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Comprexity(複雜性)、Ambiguity(曖昧性))。確かにこの何かと複雜で先の見えにくい社会を生き抜くために、人の上に立つ人、特に能力の高い人、努力家の人、最上思考の人ほど、このセルフマネジメントは必須スキルだと思う。
いわゆるリーダーやマネジメント層の人、何かを成し遂げたい人は、目標や予算や計画や構想に向かって邁進するなかで、精神的にも体力的にも自分を追い込んだり、その結果心身ともに消耗してしまう人が多いのではないか。本書はそんな人にこそ読んでほしい一冊である。
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